『がんばらない』という本がある。医療のドラマが沢山綴られているエッセイ集だ(集英社刊)。この著者が、諏訪中央病院の鎌田實先生である。
茅野市は人口5万5千人の小さな町だ。茅野市・原村・諏訪市による組合立の諏訪中央病院は、一般病床270床、療養型病床群90床、緩和ケア病床6床の大病院。地域医療のメッカとして名を知られ、視察や研修に訪れる人は後を絶たず、黒柳徹子さんからも「日本で一番いい病院」と太鼓判を押されたらしい。窓からさんさんとさしこむ陽の光、ふんだんに飾られた絵画や書画、ラウンジにはグランド・ピアノ。ボランティアの手による広々とした庭園には、四季折々の花が咲き乱れる。
鎌田先生の部屋を覗くと、同じ大学の先輩がいた。前日から病院実習に来ているらしい。私達も白衣を来て往診について行くことになった。
鎌田先生は患者さんの状態を把握するため、往診前に看護婦・士さんの話を丁寧に聴く。スタッフの会話から、患者さんとの距離の近さがわかる。
一軒一軒廻る中、鎌田先生との会話で、患者さんの顔色がよくなる。「元気出して」という言葉で、家族の方に涙がこぼれる。鎌田先生の顎ヒゲ、丸い眼鏡、大きな身体。鎌田先生の存在自体が患者さんにとって喜びなのかもしれない。私達が見たものは、その人の生き方に合わせた医療を提供することで作り上げられてきた、患者さんと医療者の信頼関係である。
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