朝日新聞夕刊西日本版(2002年12月7日)


「医の道 風に立つライオンのように」

▼ケニアで医療活動する日本人を歌った、さだまさしさんの「風に立つライオン」。この歌を励みに「医の道」を志した宮崎医科大生と仲間が、歌のモデルの医師やさださんら7人から話を聞いてまとめた大学祭の記念誌が編集者の目にとまり、出版されることになった。本の題名も「風に立つライオン」。なぜ医師になったか、これからの医療はどうあるべきか、学生側の思いも書き込んだ。

▼歌のモデルは呼吸器外科医で、現在は宮崎県立日南病院長を務める柴田紘一郎さん(62)。長崎大医学部に勤務していた71年から2年間、海外技術協力の医療専門家としてケニアで活動した。帰国後、アマチュア時代のさださんと知り合い、今も交流が続く。

▼さださんは87年、柴田さんから聞いた話をもとにアフリカの自然を描写し、「診療所に集まる人々は病気だけれど 少なくとも心は僕より健康なのですよ」「キリマンジャロの白い雪 それを支える紺碧の空 僕は風に向かって立つライオンでありたい」と歌った。

▼宮崎医科大5年の三苫悠さん(22)は、この歌を励みに受験勉強した。入学後、歌のモデルが宮崎県内に勤務する医師だと知った。昨年11月の大学祭を前に、「魅力的な生き方を通じて医療を伝えよう」とインタビューを企画。賛同した同大生10人が加わった。さらに、柴田さんの助言で、長野県で山間部医療に携わる診療所長やチェルノブイリで医療活動をした医師ら5人を知り、11人が手分けして会った。大学祭では、聞いた話などを冊子やポスターにして展示。その後、記念誌としてまとめた。

▼長崎県の離島勤務で、任務が終わる前に島を去った青森県の精神科医木村勤さん(53)は「必要とされているという充実感を味わうことができなかった」と、看護師との意識のずれや、入院期間を長くのばそうとする患者がいることなど、離島医療の現実を語った。

▼「風に立つライオン」は四六判214ページで1,575円(税込み)。10日ごろから、書店に並ぶという。問い合わせなどは不知火書房(092・781・6962)。